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人身傷害保険はとてもすぐれた保険です
人身傷害保険が発売されて、だいぶ経ちました。発売当初はそんな補償が可能なのと衝撃を受けましたが、今ではほとんどの人が契約しています。(自動車保険を契約する人の90%以上が契約)
契約者にとってはとてもいいですが、保険会社担当者にとっては、一番最初の治療費の対応から多くの意見を言われ、対応に苦慮した記憶があります。(交通事故の治療においては一括払いといって患者は治療費を窓口で精算することなく治療がうけられる事が多いです。治療費は医療機関が月末に閉めて翌月月初に保険会社に直接請求します。)
ただこの保険は非常に優れている商品であり、自動車という危険な乗り物を運転する以上・また世の中に自動車が溢れていて年間50万人以上が人身事故に巻き込まれている事実を考えると安心な生活を送る為に欠かせない補償です。対人賠償保険とほぼ同額が受け取れる奇跡の商品です。
自動車保険は賠償保険なので自分は大丈夫・若いから保険料を節約したいと外される人もいますが、保険料は車両保険とは比較にならないほど安価ですし、替えの効かない自分の体・大事な家族を守ってくれる商品です。
生命保険に加入していれば定額で支給されるので加入不要との意見もありますが、交通事故は一瞬で重度後遺障害を負う可能性がある事故です。その時の将来の逸失利益を、その時点の年収・後遺障害の程度に応じて補償する機能は生命保険にはありません。
ここでは人身傷害保険の基礎知識から実務を通じて感じている問題点を解説します。
人身傷害保険の基礎知識
自分と自分の家族を交通事故の危険から金銭面でサポートしてくれる保険です。単独ドライブ中に自損事故を起こし運転者である自分がケガした場合、この保険が発売される以前は「搭乗者傷害保険」と「自損事故保険」から日額数千円のお支払いしかありませんでした。(搭乗者保険は今は部位・症状別が主流です)入院1ヶ月の大怪我をしたら仕事が出来ません。有給休暇を使える人ならいいですが、使えない場合生活が困窮します。日額数千円ではベット代も払えません。
その問題を解決し実際の損害を負担してくれるのが人身傷害保険です。
保険金支払いの対象となる事故は?
自動車・バイクなどの運行に関する事故であれば対象になります。自分の車でも他人の車でも大丈夫です。
保険料を少し追加(交通乗用具特約)することで、自転車の事故を対象とすることが出来ます。を対象とする保険もあります。1.5トン近くある車に引かれたら大ケガをするのはわかります。ただ自転車ひかれても大ケガをします。外を歩くのであれば、自転車からも身を守るのが賢い選択です。
交通乗用具とは交通の用に供するものなので、ジェットコースターや流れるプールで使うボート等は対象外です。請求しても受付で補償外と案内されて終了です。
保険を使っても等級ダウンしません
自動車保険は賠償保険です。車を運転して事故を起こす危険度で保険料は決まります。自動車で一旦交通事故を起こせば、翌年以降も事故を起こす可能性が高いので保険料はあがります。
一方で歩行中に車にぶつけられたとか、赤信号で停車中に追突されケガをしたとかは運転のリスクには関係ありませんので、保険を使用しても翌年以降の保険料には影響ありません。運転者・運転者の家族を守る傷害保険の一種ですので、本来単品で別商品として販売してもいい商品です。
- 追突されてケガしたけど、相手車両が無保険車だった
- 歩行中に車とぶつかったけど相手車両が逃げた
- 自損事故で自分が大ケガをした
- 家族が歩行中に車にはねられた
特に実務上③のケースは大きいです。今までは搭乗者傷害保険・自損事故保険という定額の傷害保険でしか救済がされなかったケースが救済されるようになりました。1ヶ月入院して3か月全休した場合、3か月間給与が入りません。(現実的には有給を充当)この保険に加入をしていてれば、休業損害として実収入が補填されます。治療費も対象ですし、自分でケガして自業自得ですが精神的損害(対人賠償保険での慰謝料相当)も支払われます。
たまに慰謝料が納得いかないと自分が加入する保険会社にガンガン申し立てをする人がいますが、慰謝料ではなく精神的損害です。約款にそって精神的損害を計算しているだけなので、申し立てをしても約款通りと回答を受けて終わりです。無保険車にぶつけられたケースなど気持ちはわかりますが、あくまで約款にそって基準通りの補償を確保する保険です。慰謝料が納得いかない場合は加害者にたいして法的措置をとる必要があります。
人身傷害保険金の計算方法
基本は対人賠償保険と同じです。慰謝料(精神的損害)が、約款に記載のとおり計算され交渉の余地はないという違いはありますが、自分が被害者になった立場で請求が出来ます。実際の損害が補填されるので、請求できるものは確り請求する必要があります。実際に事故にあった場合は、保険会社の支払い担当者が丁寧に教えてくれますが、いざという時のために事前に確認しておきましょう。
補償される項目(①から⑩)
- 治療費(公的保険を使用した際の自己負担額)
- 治療に関わる交通費
- 休業損害
- 精神的損害(傷害分)
- 逸失利益(後遺障害分)
- 精神的損害(後遺障害分)
- 葬儀費用
- 逸失利益(死亡分)
- 精神的損害(死亡分)
- その他妥当な損害
交通事故に関して発生した損害が補填されます。損害保険は実損填補が大原則なので、家族で2契約入っていたとしても、補償は自分が被った損害額が限度です。特に休業損害は補償の一番のポイントです。ここの計算には注意が必要です。保険会社の担当者も人間ですので間違える時があります。契約者として自分自身も確り理解しておく必要があります。
①治療費の計算方法
治療費は公的保険の使用が求められます。ここが第一のポイントです。交通事故は自由診療が認められています。仮に治療費が10,000円だった場合、健康保険は3割負担なので自己負担額が3,000円で済みます。風邪をひいた時は皆、健康保険検証を提示して保険診療を受けます。病院は残りの7,000円を健康保険組合に請求する事で合計10,000円となります。
対人賠償として治療費を支払う際は自由診療と言って1点20円で計算しても、加害者側が応じれば問題ありません。通常は保険会社が支払うので、対人賠償は自由診療が一般的です。ただし同じ交通事故でも人身傷害保険は健康保険の使用が求められています。被保険者(ケガを負った人は)は健康保険証を提示して治療を受ける必要があります。
健康保険の使用を断られるケースもたまにありますが、医療機関は健康保険の提示があった場合受け入れなければなりません。今回の治療費は健康保険で精算しますと窓口で確り説明して、自己負担分を精算しましょう。建て替えたお金は後日保険会社から戻ってきます。交通外傷で公的健康保険治療以外の治療が行われることはレアケースなので、安心して健康保険を提示してください。
③休業損害の計算方法
東京海上の約款をみると細かく規定されています。サラリーマン・OLであれば給与所得者をみます。直近3ヶ月に毎月40万円の給料をもらっている人であれば、日額13,333円が補償額になります。ただし直近が大幅に稼いでいたとしても前年の年収の3か月相当が限度です。言葉がわかりにくいですが、このケースで年収が400万であれば、3か月の収入は100万なので、1日あたり11,111円です。この場合はいくら直前で稼いでいたとしても11,111円が上限となります。これは文句をいっても変更はされません。このような約款の商品を合意契約で締結した以上は、受け入れざるを得ません。
また休んだ期間が全部補償される訳でもありません。骨折して動けない状態であれば休職は明らかなので問題なく支払われます。問題は他覚的所見がない症状でお休みされる場合です。これは判断がなかなか難しいですが、対人賠償同様に医療調査等が行われ保険金が決定されます。
同じ休業損害でも損保ジャパンの約款は少し違います。実損填補は変わりませんが、前年の年収の3か月相当という縛りがありません。年収が前年に比べて大幅に上がることはあまりないですが、毎年確実に上昇している人なら損保ジャパンの商品の方が実態に即しています。年で5%も昇給する事は稀なケースなので前年3か月相当の縛りがあっても現実的にはあまり問題がないと考えます。
全く別の会社なのに給与の立証が出来ない場合の最低補償額は5,700円と同額です。これは自賠責保険の金額に合わせているからです。自賠責保険の説明は別記事にて解説をします。損保社員は自賠責の規定集を机上に置いて仕事をするぐらい、覚えておくのが大変な保険です。規定が細かいし、自賠責基準を下回る認定をすれば、保険会社は追加払いをしないといけません。
④精神的損害(傷害分)の計算方法
精神的損害も気になるポイントです。自分が負った痛みに対してどれぐらいの金額が補償されるのか。対人賠償保険であれば個別事情を鑑みて慰謝料の上乗せ・調整があります。しかしながら人身傷害保険では一切ありません。あくまで約款通りです。
慰謝料というと難しい印象がありますが、精神的損害(慰謝料相当)は簡単です。約款の言葉通りに計算をするだけです。具体的に約款に則り計算してみます。誰でもできます。
具体例)10日入院後・2か月間通院。通院は月10回で20回のケース。
- 入院は1日8,400円なので10日分で84,000円
- 通院は1日4,200円です。入院通院期間の合計は70日です。90日以内なので100%で計算
- 通院1日4,200円×2倍×20日×100%=168,000円
- 入院と通院分の精神的損害額を合計して252,000円が認定額になります。
開放骨折でも打撲でも治療期間と通院頻度で計算されます。一見大ケガしても同じ?と残念な気持ちになりますが、それは違います。大量に発生する交通事故傷害事案を間違いなく計算して支払う為にはシンプルな計算方法が一番です。
診断書の傷病名は医師免許がない人が見ても正直わかりません。大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折とか何処の骨という感じです。簡単なケガであれば理解出来ますが、受傷したケガが重症なのか軽傷なのか識別する際に間違いが発生しやすいのです。契約者でもわかる計算方式が一番です。保険会社が間違っても、根拠を持って異議を申し立て出来ます。
人身傷害保険の問題点について
まちがいではないですが、「自分の責任があって減額されても満額の補償が貰えるんだ。便利だな。」と思うひとが大半です。
3,000万円という大ケガ(後遺障害が残るケースの金額です)を負って、3割で900万も減額されたらその後の生活に困窮します。これを救ってくれる人身傷害はすごいとなるわけです。しかしながら正確には違います。なにが違うのでしょうか?
人身傷害保険はあくまで約款基準での計算が上限なの?
現実問題加害者側が損害賠償を認めた金額と人身傷害保険の金額が同一になることはありません。通常は加害者側が認める認定額の方が大きくなる事が多いです。加害者側なので被害者を慰謝するために慰謝料も人身傷害基準より高い金額が認められることが多いです。
- 加害者側が1,000万円の損害を認定し80%で800万円を賠償
- 被害者側の人身傷害補償基準での認定額は950万円
- イラスト通り1,000万円ー800万円で200万円が支払わると多くの人は思います
- 実際は950万円ー800万円で150万円が支払われます。
第三者(加害者)からの賠償があった場合は、その分を控除して保険金は支払われます。ここにイラストとの誤解が生じます。もちろん人身傷害補償保険で約款通りの補償はされるので、保険がおりないとかそのようなレベルの問題ではありません。ただ自分の身に降りかかった時に、このケースであれば50万の差を受け入れられるのかという問題です。自分の勘違いとはいえスッキリしないですよね。
人身傷害保険の契約者が裁判で判決・和解で損害額が認められたら?
更に人身傷害の約款には訴訟の場で認められた場合は、その金額を損害額とみなすという規定があります。(損保全社の確認はしていませんが、訴訟基準差額説を最高裁が出してから各社約款を修正しています。)保険は約款通りの商品と思っていたのに、訴訟になれば金額が変わるのです。
訴訟を起こすには費用がかかります。訴訟で認められた金額を基準に計算されるのはうれしいですが、訴訟を起こす金銭的資力・気力がない人もいます。ただ判決又または裁判上の和解に限りの条項を緩和し、示談での合意額も含んでしまうと、すんなり示談した人と交渉を重ねて上乗せして示談した人との間に、人身傷害で支払われる金額に差が出てしまします。
裁判して損害額が上乗せされた人の保険金を、契約者全員の保険料で負担をする。全員が裁判をする訳ではないので、契約者間の公平性が気になりますが裁判をする権利は契約者全員にあるので受け入れざるを得ません。
現状課題はありますが、ただそれを補うメリットの方が大きいので人身傷害保険は契約したほうがよいと考えます。追突防止機能付きの車が増え自動車事故は減少傾向にありますが、まだまだ多くの事故は発生していますし、歩行中のリスクもあります。一寸した負担額で自分と自分の家族を守れる保険が人身傷害保険です。